乱流燃焼の直接数値計算

本研究室で開発された直接数値計算コード、TokyoTech Combustion Simulation: TTXを用い、様々な乱流燃焼直接数値計算を行っています。以下に本取り組みを、 1.研究背景2.直接数値計算とは3.乱流燃焼モデルとは4.様々な直接数値計算結果 、 の順に説明します。

1.研究背景

今後30年、世界の全エネルギー供給量に対する燃焼によるエネルギー量の割合は80%を超え続けると予測されています*1。燃焼工学機器は、1700年代後半から200年以上にわたり使用及び改良され続けていますが、近年の環境規制や化石燃料の将来的な枯渇リスクに伴って、これらの設計には更なる技術革新が求められています。CO2排出の無い水素クリーン燃焼や、より小さな燃焼器で大きなエネルギーを生み出すためには、燃焼機器設計においては乱流を上手く制御し、燃料、空気及び高温既燃ガスの混合を促進させることを念頭に置く必要があります。このような要求は自動車エンジンや航空機用ガスタービンエンジンで特に顕著です。しかし、うまく制御された乱流は混合を促進し低環境負荷燃焼を実現する一方で、燃焼に伴うガス膨張・性質の変化により乱流場そのものも影響を受けます。この乱流と化学反応の相互作用(干渉機構)の理解は、次世代低環境負荷燃焼器の開発はもとより、その為に用いられる燃焼モデル開発においても避けては通れない課題です。
*1US Energy Information Administration, Annual Energy Review, 2010

夕暮れの飛行機(パブリックドメインイメージ)

2.直接数値計算とは

高性能数値計算機 (TSUBAME3.0)

乱流燃焼現象は通常数個から数百個の偏微分方程式群により支配されています。これらの支配方程式は非線形性の強い項を含んでおり、さらに幅広いスケールの物理現象を解像する必要があるため、数値的に解くには計算コストの高い高精度数値計算手法を用いる必要があります。このような乱流燃焼数値シミュレーションを直接数値計算またはDirect Numerical Simulation (DNS)と言い、後述する工業製品開発に用いる乱流燃焼モデル構築に必要不可欠な計算ツールとなっています。本研究室では詳細な化学反応を考慮に入れた直接数値計算を90年代に世界で初めて実施し*2、それ以来スーパーコンピューターを用い実施した多くの直接数値計算データベースを活用し、燃焼現象の解明、モデル開発は元より、得られた数値計算データベースを他の研究グループと共有することで、乱流燃焼研究分野に貢献しています。
*2T. Poinsot and D. Veynante, Theoretical and Numerical Combustion, 2005.

3.乱流燃焼モデルとは

上述したDNSとは異なり、実用燃焼機器設計の為のシミュレーションでは、単純化した支配方程式を用い、時間平均場または大きなスケールの非定常流体運動のみを対象とします。これらのシミュレーション手法をそれぞれRANS (Reynolds Averaged NAvier-Stokes)シミュレーション及びLES (Large Eddy Simulation)と呼びます。この単純化作業に必要不可欠なのが乱流燃焼モデルであり、これがRANSまたはLESのシミュレーション精度に大きな影響を与えます。一般的に乱流燃焼モデルは燃焼と乱流運動の相互干渉を再現するためのモデルですが、この物理現象は強い非線形性があり、高精度のモデル開発は困難です。本研究室では多くのDNS結果を活用し、経験則ではなく、実際の乱流燃焼物理に基づいた乱流燃焼モデルの開発を行っています。

4.本研究室で開発された乱流燃焼モデル

本研究室で実施された様々な乱流及び乱流燃焼の直接数値計算結果と理論を用いた以下のようなLES (上述)とRANSシミュレーション用いる乱流燃焼モデルが開発されています。

フラクタル・ダイナミックSGS燃焼モデル


上式(上)で表されるフラクタル・ダイナミックSGS燃焼モデルは、LESにおいてエネルギーの輸送方程式の代わりによく用いられるG方程式(上式(下))を閉じるのに必要なSGS燃焼モデルです。

同時刻におけるシミュレーション結果(瞬時の火炎形状)の比較。左:DNS結果、中:本研究室で開発されたモデルを用いたLES結果、右:従来のモデルを用いたLES結果。K. Hiraoka, et al., Combustion Science and Technology (2016).

本モデルは、内閣府・科学技術政策のプログラムである戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:エスアイピー):革新的燃焼技術において開発される"日の丸"熱流体解析ソフトウェア火神 (HINOCA)を始めとする汎用シミュレーションソフトに組み込まれることが決まっています。

モード選択モデル

上図上段:モード選択モデルとそれに用いる従来の燃焼モデル。下段:モデル検証に用いたスワール乱流燃焼DNS結果。Y. Minamoto et al., International Journal of Hydrogen Energy (2015).

上式(左)で表されるモード選択モデルは、RANSシミュレーションにおけるソース項を記述するためのモデルであり、従来の単一乱流条件下で機能する乱流燃焼モデルを複合的条件に拡張するためのモデルです。本モデルはスワール乱流燃焼器を対象とした局所的な乱流条件が複数のレジームに跨る乱流燃焼DNS結果(上図下段)を用いて検証されました。本モデルは、日本燃焼学会産学連携研究事業の一環である燃焼解析プラットフォーム開発・検証WGにおいて予混合燃焼RANSシミュレーションモデルとして採用されています。

4.本研究室で実施された様々な直接数値計算結果

3次元乱流平面伝播火炎の直接数値計算結果
3次元乱流噴霧燃焼の直接数値計算結果
乱流V型予混合火炎の直接数値計算結果
3次元乱流平面伝播火炎の直接数値計算結果
乱流スワール予混合火炎の直接数値計算結果
定容容器内乱流燃焼の直接数値計算結果