内燃機関におけるレーザー計測と筒内流動制御

効率的な燃焼には、筒内の空気・燃料・乱流・壁面熱伝達の相互作用を理解することが重要です。本研究室では、可視化窓を備えた単気筒光学エンジンを用い、レーザー計測とPIVで燃焼室内の火炎・流動構造を時間分解して調べています。

OH-PLIFとCH2O-PLIFで反応帯と予熱領域を捉え、筒内圧力やMEMS熱流束センサとも組み合わせることで、流れが燃焼の速さ、安定性、壁面熱損失に与える影響を明らかにします。

1. なぜエンジンの中を見るのか

エンジン筒内の流れはクランク角ごとに変化します。光学アクセスによって火炎と流れを空間・時間的に追跡し、圧力や熱流束と組み合わせることで、画像とエンジン性能を結び付けます。

写真の光学エンジンは、シリンダ周辺とピストン側の光学アクセスを通じて、点火直後から火炎が広がる過程を観察できる構成です。同じ条件でも生じる火炎核の成長位置や局所消炎の違いを比較し、燃焼変動の原因を分析します。

光学エンジン
筒内計測に用いる単気筒光学エンジン

2. 火炎と流れを可視化する(OH-PLIF・PIV)

OH-PLIFで火炎の構造を、ステレオ・マイクロPIVで筒内の速度場を計測し、流れと燃焼の関係を調べます。クランク角を基準に画像を比較することで、点火後の火炎成長と流動の変化を対応させます。

OH-PLIFで火炎を捉える

OH-PLIFレーザー計測装置
OH-PLIFレーザー計測装置

シート状の紫外レーザーを燃焼室に入射し、OHからの蛍光をカメラで撮影します。光学フィルタで検出する波長を選び、燃焼室内の断面におけるOH分布を捉えます。

光学エンジンおよびOH-PLIF計測の概略
光学エンジンおよびOH-PLIF計測の概略

概略図はエンジンと計測光学系の位置関係を示しています。点火位置や計測断面を確認しながら、火炎の広がりをクランク角ごとに比較します。

以下のOH-PLIF画像では、点火後の火炎の位置や形状を比較できます。筒内圧力の情報と併せて調べることで、画像に現れる火炎構造と燃焼のサイクル変動を関連付けます。

OH-PLIFによる筒内燃焼過程の可視化
OH-PLIFによる筒内燃焼過程の可視化

ステレオ・マイクロPIVで流れを捉える

二台のカメラでトレーサ粒子を異なる方向から撮影し、粒子像の移動から計測面内の三成分速度を求めます。装置写真と概略図は、レーザー、カメラ、エンジンの配置を示しています。

高速度ステレオ・マイクロPIV計測装置
高速度ステレオ・マイクロPIV計測装置
ステレオ・マイクロPIV計測実験の概略
ステレオ・マイクロPIV計測実験の概略

速度変動から求めたレイノルズ応力、乱流エネルギー生成、乱流エネルギーの分布を比較し、乱れの強さや平均流から乱れへのエネルギー移動を調べます。火炎画像と併せて検討することで、流動構造と火炎の変形・伝播の関係を考察できます。

PIVによるレイノルズ応力・乱流エネルギー生成・乱流エネルギー
PIVによるレイノルズ応力・乱流エネルギー生成・乱流エネルギー

3. OH-CH2O-PLIF同時計測

OHとCH2Oの蛍光を組み合わせ、異なる化学種の分布から筒内の燃焼状態を調べます。同じ燃焼サイクルで二つの信号を取得することで、別々のサイクルの画像だけでは捉えにくい空間的な対応を比較できます。

OH-CH2O-PLIF同時計測システム
OH-CH2O-PLIF同時計測システム
OH-CH2O-PLIF同時計測システムの概略
OH-CH2O-PLIF同時計測システムの概略

装置写真と概略図は、二種類の励起レーザーと検出系の構成を示します。OHとCH2Oそれぞれに適した波長と光学フィルタを用い、撮影タイミングをクランク角に対応させます。画像を比較する際は、背景光や光学系の違いにも注意が必要です。

OH-CH2O-PLIFの光学エンジン内視野
OH-CH2O-PLIFの光学エンジン内視野

計測視野と蛍光分布の対応

視野図で、OHとCH2Oの計測領域、点火プラグ、レーザー入射方向を確認します。視野や倍率が異なる画像では、共通して観察できる範囲を対応させて分布を比較します。

下図の蛍光分布から、各化学種の信号が現れる位置や広がりを調べます。蛍光強度は温度や励起・検出条件にも依存するため、明るさだけを反応の強さとみなさず、分布の形状や位置関係と併せて解釈します。

OH-CH2O-PLIF同時計測による筒内燃焼過程
OH-CH2O-PLIF同時計測による筒内燃焼過程

4. 画像計測と熱伝達を結び付ける

熱流束センサ
光学エンジンに組み込んだMEMS熱流束センサ

薄膜型MEMSセンサで壁面への急速な熱移動を計測します。OH/CH2O-PLIFと組み合わせることで、「火炎が壁面に近づいたとき、局所的な流れと火炎構造のどの要素が熱流束を決めるのか」という問いに迫ります。

熱流束は、火炎が壁面に到達した瞬間だけでなく、未燃混合気の温度、壁面近傍の流速、火炎と壁面の距離、壁温度によっても変化します。そのため、熱流束センサの時間応答とPLIF画像のクランク角をそろえ、火炎の接近・消炎・再着火に対応した熱移動の変化を追跡します。

光学エンジンの画像から得られる火炎位置と、MEMSセンサから得られる熱流束のピークを同じ時間軸に並べることで、火炎が壁面へ近づいたことによる熱伝達の増加と、流れによる冷却・混合の効果を分離して評価できます。これは、画像を見た印象だけでなく、壁面熱損失を定量的なエネルギー収支として理解するために重要です。

タンブル強化プレートのような筒内流動制御デバイスについても、単に強い流れを作るのではなく、燃焼を安定させながら不要な壁面熱損失を抑える流れ・火炎構造を目指します。燃焼を速める効果と熱損失を増やす効果を分けて評価することが、実用的な最適化には欠かせません。

5. 計測からエンジン最適化へ

流れ、化学反応、圧力、熱伝達を同じ基準で取得することで、当量比、点火時期、流動制御条件の違いを比較できます。燃焼安定性と熱効率を高める要因を抽出し、数値計算や低次元モデルの検証データとしても活用します。

例えば、タンブル強化によって点火初期の火炎伝播が促進されても、壁面近傍の流速や火炎の接近によって熱損失が増えれば、正味の効率向上は小さくなる可能性があります。本研究室では、圧力上昇率、燃焼期間、サイクル変動、壁面熱流束を同時に評価し、燃焼の速さだけでなく、エネルギーがどこへ移動したのかまで含めて条件を比較しています。

このように、光学計測は装置を観察するためだけの手段ではありません。流れ場、反応場、壁面熱伝達を一つの実験体系で結び付け、エンジンの性能を支配する因果関係を明らかにするための基盤です。得られたデータは、実験条件の最適化、燃焼室形状や流動制御部品の設計、さらに将来の高効率・低排出燃焼技術の開発に活用されます。