乱流の直接数値計算とAIモデリング

乱流は、大小さまざまな渦が相互に作用しながら、運動量・熱・物質を輸送する非線形な流れです。本研究室では、直接数値計算(DNS)によってその幅広い時間・空間スケールを解像し、乱流の基本構造を調べるとともに、実用計算で用いるモデルの基礎データを構築しています。

DNSで得られる速度、圧力、温度などの時空間データは、現象理解のためだけでなく、LES(Large Eddy Simulation)のサブグリッドスケール(SGS)モデルを検証・学習させる教師データとしても活用できます。高精度計算とAIモデリングをつなぎ、複雑な流れをより低い計算コストで予測することが本研究の目標です。

1. DNSで乱流の細かな構造を捉える

DNSは、乱流を平均化したり、小さな渦を経験式で置き換えたりせず、支配方程式を格子上で直接解く手法です。大きな流動構造から粘性によって散逸する微細な渦までを同時に扱うため、計算量は大きくなりますが、モデルに依存しない詳細な物理データを得られます。

本研究室では、等方性乱流、チャネル乱流、混合層など、境界条件やせん断の異なる流れを対象にDNSを行っています。流れの種類とレイノルズ数を変えてデータベースを構築し、どの構造が条件によらず現れるか、壁面やせん断が輸送現象をどのように変えるかを調べます。

一様等方性乱流DNSの白色渦構造
一様等方性乱流DNSで可視化した渦構造
乱流の普遍的微細構造
乱流の普遍的微細構造

2. 多様な乱流場から物理を読み取る

一様な乱流とは異なり、実際の流れには壁面、曲面、流速差などの条件があります。これらの条件は、渦の大きさ、向き、移動の仕方を変え、摩擦抵抗や熱・物質の運ばれ方にも影響します。DNSでは、こうした条件を一つずつ加えながら、流れのどの部分で乱れが強くなるのかを調べます。

壁面せん断乱流
壁面せん断乱流

壁面せん断乱流では、壁に近いほど流速が大きく変わります。その差によって生まれる細かな渦は、壁面摩擦や熱伝達を左右します。このため、車両や航空機の抵抗低減、配管内の流れ、熱を効率よく運ぶ機器の設計に関係します。

図では、壁の影響を受ける流れの構造を可視化しています。DNSはこのような複雑な構造を、平均値だけでなく時間ごとの変化として追うことができます。

自由せん断乱流は、速度の異なる二つの流れが接する場所で発達します。境界にできた渦が周囲の流体を巻き込み、二つの流れを混ぜていきます。燃焼器では燃料と空気の混合、環境流れでは排気や熱の拡散と深く関わります。この種類の流れを調べることで、渦がどのように大きくなり、どのように物質や熱を運ぶかを理解できます。

自由せん断乱流
自由せん断乱流
異なるレイノルズ数における環状チャネル流れ
レイノルズ数の違いによる環状チャネル流れの構造変化

同じ環状チャネル流れでも、流れが速くなると渦の数や細かさが変わります。図は、流れの速さを表すレイノルズ数を変えた場合の違いを示しています。

この比較により、ある条件で得られた知見が別の条件でも使えるかを確認します。これは、実験や計算の結果を実際の機器へ応用する際に欠かせない考え方です。

3. DNSからLESのSGSモデルへ

実際の機器を対象とするLESでは、大きな渦を計算し、格子より小さい渦の働きはSGSモデルで表現します。図のカットオフ波数より高い側にある未解像の運動は、乱流エネルギーの輸送や散逸に寄与するため、適切なモデル化が必要です。

従来の渦粘性型・相似型モデルには、流れの種類、壁面までの距離、格子幅が変わると精度が低下しうる課題があります。そこでDNSから得た「解像された場」と「本来のSGS応力」の対応を用いて、モデルが再現すべき量を明確にします。

LESにおける解像スケールと未解像スケール
LESにおける解像スケールとSGS(未解像)スケールの関係

4. DNSデータに基づくAIモデリング

DNSは、乱流の細かな動きを記録した「高精細な動画」のようなデータです。本研究では、このデータをAIに学習させ、計算では見えにくい小さな渦の働きを、より少ない計算量で見積もる方法を研究しています。

1. DNS詳しい乱流のデータを作る。
2. データ整理実用的な計算で使える形へ変換する。
3. 周囲を見る近くの流れのつながりをAIへ渡す。
4. 学習・検証未知の条件でも使えるか確かめる。

データをAIに渡すまで

まず、DNSで得た詳しい流れの情報を、実用的なシミュレーション(LES)で使える形へ整理します。次に、AIが「この周囲の流れなら、見えない小さな渦はどのように働くか」を学べるデータセットを作ります。

DNSデータからGNNの学習・検証データを作る流れ
DNSのデータを整理し、GNNの学習と検証に用いるまでの流れ

さまざまな乱流を学習に使う

一つの流れだけで学ぶと、AIはその条件だけを覚えてしまうことがあります。そこで、自由に発達する乱流、流れが混ざる領域、壁の近くの流れなど、性質の異なるDNSデータを組み合わせて学習と検証を行います。

GNNの学習と検証に用いる三種類の乱流
学習と検証に用いる三種類の乱流場。異なる条件で使えるモデルを目指す。

GNNで周囲の流れを見る

通常のAIモデルは、一つの計算点の情報を中心に予測します。GNNは、中心の点だけでなく、その周囲にある点どうしの関係も一緒に見ます。これは、人が一枚の写真の一部分だけではなく、周りの様子から意味を判断することに似ています。

ANN-N0は中心だけを見る比較用のモデルです。GNN-N1、GNN-N2は、見る範囲を少しずつ広げたモデルです。どの程度まで周囲の情報を使うと予測が良くなるかを、実際のDNSデータで確かめています。

ANN-N0、GNN-N1、GNN-N2の構造
中心だけを見るANN-N0と、周囲の情報も使うGNN-N1・GNN-N2の比較

5. 未知の流れへ広げる検証

学習に使わなかった条件でも予測できるかを確かめます。図は、三種類の乱流場でANNとGNNを比較した結果です。周囲の情報を利用するGNNは、多くの条件で安定した予測を示します。

ANNとGNNの予測性能の比較
異なる乱流場でのANNとGNNの予測結果の比較

こうした検証を重ねることで、AIが特定のデータを暗記するだけでなく、異なる流れでも役立つかを確認します。将来は、エンジンや燃焼器などの設計計算を、より速く、より確かに行うための技術へつなげます。

圧縮性乱流火炎DNSの流れ場
圧縮性の水素・空気予混合火炎DNSに用いた流れ場の例。左:平面火炎、右:V型火炎。

6. 高精度データを実用的な予測へ

DNSは計算コストが大きいため、そのまま実機の設計計算へ適用できる場面は限られます。しかし、DNSは乱流モデルの仮定を検証し、AIが学習すべき物理量を定める基盤になります。本研究室では、DNS、物理に基づく統計解析、機械学習を連携させ、精度と計算効率の両立を目指しています。

図は「乱流の直接数値計算とAIモデリング」資料に基づく。