壁面乱流摩擦抵抗に関する研究

1.壁面乱流とは

乱流は、物質の拡散や混合、そして燃焼の促進といった正の性質がある一方、管路や壁面に沿う流れの抵抗(壁面摩擦抵抗)を著しく増大させるという負の側面も持ち合わせています。特に、エネルギー問題,環境問題への取り組みが強く求められている今日において、自動車、船舶、航空機等の輸送用機械やパイプラインの熱物質輸送のエネルギー高効率化に大きく寄与する壁面摩擦抵抗の低減技術の開発は急務であると言えます。本研究では、基本的な壁面乱流である円管内乱流を対象としたレーザー計測を行い、その現象解明と抵抗低減技術の開発に繋がる知見を得ることを目的としています。

壁面摩擦抵抗の影響を受けやすい身近な流体機器

2.レーザーを用いた乱流場の計測とその原理

ステレオPIV計測風景

流体速度計測に用いられる計測手法として、ピトー管や熱線流速計などの流体に“接触”して計測を行う手法が広く使われています。これらの計測法では、ある点での速度を、安価で精度良く計測することができます。しかし、計測対象に接触している為に、計測器その物が流れ場に影響を与える可能性があるうえ、空間内の速度分布を計測することは一般的に不可能です。そこで、本研究では、粒子画像流速計(PIV)という非接触で流れ場全体を計測対象にできる計測手法を用います。PIVでは、まず計測対象である流れ場に髪の毛の断面程度の直径をもつ極小の粒子(トレーサ粒子)を添加します。そしてそのトレーサ粒子が添加された流れ場のある空間(計測領域)に非常にエネルギー密度の高い光(レーザー光)を照射し、そのトレーサ粒子からの散乱光を非常に短い時間間隔で撮影します。得られた1セット2枚の粒子画像から、画像処理を用いて粒子の移動量を算出し、計測領域全体の速度を算出します。

3.PIV計測結果と壁面摩擦抵抗低減効果

流体中に界面活性剤を添加すると壁面摩擦抵抗が低減することは、Toms効果として知られています。固有直行分解(POD)と呼ばれるモード分解手法を用いることで、水の場合と界面活性剤を添加した場合において、支配的な流体構造を抽出することができます。

主流方向渦度の支配的な4つのPODモード。水のみの場合(上)、界面活性剤添加(下)